歯列矯正治療に使用する器具はワイヤーを切断するピンカッター、エンドカンターなどのカッター類、ワイヤを曲げるためのバードビークやヤングプライヤー、または歯面に装着してあるブラケットを除去するためのブラケットリムーバーなど矯正ならではのプライヤー類が数多くありますね。
それらのカッター類、プライヤー類の器材処理はどのように行っていますか?
唾液や粘膜に触れる器具
矯正用のプライヤーやカッターを医療器具の器材再生の分類表“スポルディングの分類”に当てはめると、どちらも粘膜には接触しますが、血管内や組織の無菌領域に入らない器材に分類されます。これはセミクティカル器具として考えます。唾液やプラークなどのタンパク質に触れますので十分なタンパク質を除去する洗浄を行ない中水準消毒でも良いということになります。
中水準消毒薬は使えない
中水準消毒薬といえば次亜塩素酸ナトリウムの選択になります。有機物を洗浄により除去してあれば高水準消毒薬と同じレベルの消毒効果をもたらします。が、ここで問題は次亜塩素酸ナトリウムにおける金属腐食の問題があります。プライヤーの取扱い説明書では次亜塩素酸ナトリウムは使用できない薬剤として記載されています。
滅菌するリスク
上記の理由で消毒薬の選択が難しいので、滅菌の選択をすると今度は繰り返す滅菌操作によりカッター類の切れ味が悪くなってきます。矯正ではあらゆる太さのワイヤーをカットしますから切れ味を損なわせるとなれば懸念してしまいます。さらにはプライヤー類は基本セットのように本数を常備されていないクリニック多いので滅菌の選択をしたとしても滅菌工程に時間がかかると診療に影響を及ぼすこともあります。
理想は医療用洗浄器での熱水消毒
消毒薬では金属腐食の問題、滅菌では繰り返す滅菌操作による切れ味低下の問題があります。そこで有効なのは医療用洗浄器(ウォッシャーディスインフェクター:WD)による洗浄と消毒が適切だと考えます。WDでは90℃5分で熱水消毒が可能になります。医院にWDが設備されているのであれば使用してください。ただし、WDにも再生90分程度の時間がかかりますし、それなりに器具を溜めての洗浄になりますのでプライヤーの本数は必要になってきます。
洗浄が大切
医院にWDがない場合や、WDはあってもプライヤーの本数が足りない場合はタンパク分解酵素の入った洗浄剤でしっかりと有機物を落とすことが大切です。プライヤーはヒンジと呼ばれる開閉の部分が汚れますのでそこを意識してしっかりと洗浄しましょう。エンドカッターの種類によっては刃先にゴムがついている種類のものもあります。ゴムがついているものに関してはゴムを外して洗浄をします。ゴムは基本的にディスポーザブルです。
アルコール綿を使う方法
唾液やプラークがプライヤーに付着している状態で洗浄せずそのままアルコール綿で清拭するのはタンパクを凝固させてしまいますので清拭をしてはいけません。まずはタンパク分解効果のある洗剤を用いて、スポンジで手洗いをしましょう。しっかりと汚れを落として、水分を拭き取ります。アルコール綿を使用して器材を清拭する方法を選択するのであれば、消毒効果が最大に発揮できるように工夫をしましょう。
どの方法が良いのかを選択する
医院によってプライヤーの使用頻度や在庫しているプライヤー類の本数、医院の設備など条件が違います。そこで自分の医院ではどの方法が良いのかを選択する必要があります。最低限行うのはプライヤーに付着した体液をしっかりと落とすことです。