滅菌バッグに入れた器具は、時間的に無菌状態が続くわけではありません。また、落下や破損などの事象が起こると無菌状態ではない可能性ができてきます。よって、医療器具の滅菌保持には「時間依存型」と「事象依存型」、あるいはその両方を取り入れた管理が必要であることを意味しています。
前回の投稿記事『滅菌された器具の意外な“落とし穴”』はこちら
滅菌物の管理の方法
時間依存型管理とは、滅菌した日からの経過時間によって使用可否を判断する方法です。時間が経過すればするほど、無菌状態の保証は難しくなるため、多くの施設で採用されています。この管理方法を行うためには、滅菌バッグに「滅菌日」や「使用期限」を記載する必要があります。しかし、歯科医院で使用する滅菌器具の中には、基本セットなどのように毎日使用されるものが多数あります。それらすべてに日付を記載して管理することは、現場に大きな負担をかけるのが実情です。
歯科医院に適した管理方法は?
そこで、現実的な管理方法としてお勧めしたいのが、「使用頻度に応じて管理方法を分ける」というアプローチです。たとえば、外科用器具や頻繁に使用しない特殊器具には時間依存型を適用し、滅菌日を明記して期限管理を徹底します。一方、基本セットなどの毎日使用される器具は事象依存型、つまり「滅菌バッグの破損や汚染がない限り使用可能」とする管理方法を採用します。これは、日常診療の中で無理なく実行可能な方法でありながら、感染リスクを最小限に抑える合理的な対応です。
滅菌バッグへの日付記載の方法
滅菌バッグへの日付の記載方法はいろいろあります。
①市販の滅菌ラベルを用いる方法
滅菌バッグを扱うメーカーが滅菌ラベルを販売しています。ラベルには滅菌工程の通過の有無を示すタイプ1のインジケーターの性能があります。ハンドラベラーも販売されますので、滅菌日や滅菌期限の日時をセッティングし、滅菌前に滅菌バッグに貼り付けます。
②滅菌バッグに滅菌日あるいは滅菌期限を手書きする
滅菌バッグに滅菌日、あるいは滅菌期限をサインペンで手書きする方法です。使用するサインペンは高圧蒸気滅菌で滲まない細すぎない油性ペンを用います。日付を記入する場合は、被滅菌物にあたらない滅菌バッグのシールの外側のビニール面に書きます。紙の面に油性ペン等で記入するとインクが溶けて、インク成分が被滅菌物に付いてしまう可能性がある為です。
高圧蒸気滅菌器対応のサインペンでない場合は滅菌後に記入することをお勧めします。
③スタンプタイプの日付印を使用する
事務用品の日付スタンプを使用する方法です。筆者の医院では現在この方法を採用しています。滅菌後に日付を記す器具を選別し、滅菌バッグのフィルター面(紙面)の端に滅菌日をスタンプしています。スタンプする際に滅菌バッグを押さえつけることになり、破損の懸念がありますので必ず、シールの外側にスタンプすることを徹底しています。
時間依存型で管理する器材、事象依存で管理する器材
筆者の医院では外科器具を主に時間依存型で管理を行なっています。滅菌後に滅菌日のスタンプを押してから保管します。保管の際にも日付の古いものは保管スペースの左側に来るように。新しく保管するものは右側に入れるようにしています。
このルールは事象依存型で日付なしで管理している器具にも相当します。当院のルールは「使う時は左側(または上)から、新しく保管するする際は右側(または下)に入れます。基本セットや、金属トレー、プローブ、根管治療用のファイルも新しく保管するものは元にある器具の右側に入れていくことを徹底します。そうすることにより、事象依存管理であっても滅菌物を循環して使用することができ、使用されない滅菌物をなくすことができます。
現実的な管理体制を考えよう
院内での運用を考慮した柔軟な管理体制を整えることで、業務効率と感染対策のバランスを保つことができます。
器材再生は滅菌する過程までではなく、使用する直前まで清潔に管理ができることが求められます。日々の診療に追われるなかでも、スタッフ全員がルールを理解し、守れる仕組みづくりをしましょう。
さらに、定期的に管理方法を見直し、使用期限が切れている器具が混在していないかを棚卸しや院内チェックの中に組み込むことで、より安全性を高めることができます。
「滅菌した=安全」ではなく、「適切に管理されていることが前提での安全」という意識を院内全体で持つことが、医療機関としての信頼にもつながります。忙しい現場でも無理なく続けられる方法を工夫しながら、“無菌のリミット”を見逃さない現場づくりを目指しましょう。