滅菌された器具の意外な“落とし穴”

歯科医院では使用済み器具を洗浄し、用途に応じて滅菌バッグに入れて滅菌をします。使い捨ての器具でない限り、処理をして繰り返し使用します。これを器材再生と言います。

使用用途によって器具は滅菌バッグに入れて滅菌を施します。そして、使用する直前まで無菌状態を保てるようにします。しかし、滅菌した器具も、ずっと使えるわけではありません。滅菌された器具には「有効期限」があります。滅菌バッグに入っている器具でも時間の経過や外的要因によって、包装の中の無菌状態は失われていく可能性があります。

そのため、滅菌器具には「この期間内であれば安全に使える」という有効期限(無菌性保持期間)が設定されています。

時間依存型と事象依存型

無菌性の保持には、2つの考え方があります。

時間依存型無菌性保持(Time-Related Shelf Life)

『滅菌してから◯日または◯か月以内なら安全』とする考え方です。日数を基準に再滅菌のタイミングを決めます。
例:6か月経過したら未使用でも再滅菌が必要。

事象依存型無菌性保持(Event-Related Shelf Life)

『落下、破損、湿気、開封など無菌状態を損なう“出来事”があった時点で再滅菌』とする考え方です。
つまり“保管状態が良ければ期限を設けない”こともあります。

例:滅菌バッグに入っている器具を落下した。(落下の衝撃で滅菌バッグの破損とそれに伴う汚染の可能性)

 

歯科医院ではどちらの管理方法を選択するか?

医院ごとにルールを作成するとよいと思います。私の臨床経験からは時間依存型と事象依存型を合わせて管理することがお勧めです。

歯科医療器具には毎日のように頻度高く使用される器具とそうでない器具があります。外科器具でも抜歯の時には必ず使用するものと、あまり使用しない器具が皆さんにも院内もあると思います。

毎日使用するような器具に対しては例えば滅菌バッグに穴が開いている(破損している)事象で考えるほうが良いです。先述したような滅多に使用しない外科器具にたいしては時間依存で管理することをおすすめします。

時間依存型の有効期限はどれぐらい?

滅菌物には滅菌バッグでの保管に関わらず有効期限が存在します。

滅菌バッグの場合は1か月から半年です。かなりの幅があるように思われると思いますが、ここにはさまざまな条件を考慮する必要があるからです。

滅菌器の性能

真空脱気式(Bクラス)滅菌器の場合は滅菌バッグ内の空気排除がしっかりとできています。重量置換式(Nクラス)滅菌器の場合は少し懸念が残ります。よって、滅菌期限を少し短めにしておくと安心です。

保管場所の適正

滅菌物は湿気の少ない扉(または引き出し)に重ねおきをせずに保管します。医院の収納空間は限りがあるケ-スが多く、推奨されるような場所に保管できない場合もあります。そのような場合も滅菌期限を短めにすると良いでしょう。

滅菌物の落とし穴は“有効期限”

滅菌された器具は、永久的に清潔(無菌性)を保てるわけではありません。実際には、滅菌の方法、保管環境、滅菌バッグの劣化などが無菌性の保持に影響を与えます。

滅菌後の有効期限は患者さんからは見えにくい部分ですが、診療を支える非常に重要な管理業務です。再生処理工程も大切ですがそれらを保管し、管理するところまでもあわせて考えていきましょう。