使用済みの器具の再生処理でもっとも大切なのは汚染された器具の洗浄です。滅菌や消毒を施しても洗浄が確実に行われていなければ器具に感染物質を残したまま固着(こびりつかせる)させることになり、錆や劣化の原因にもなり兼ねます。
洗浄に必要なのは水と洗剤と力です。洗剤なしで水だけで擦っても汚れは落ちません。洗剤には汚れのターゲットに適応する洗剤を使用します。医療現場では血液などのタンパク質が主な汚れです。
器具を大切に扱うため。そして患者さんにも術者にも安心して使用できるように、洗浄時に使用する医療用洗剤の特性について理解してみましょう。
医療用洗浄剤の分類
医療用洗浄剤はアルカリ性・中性・酸性と大きく分類されます。一般的に血液などの有機物の汚れに対してはアルカリ性の洗浄剤が強い効果を発揮します。歯科器材は材質がさまざまなため、アルカリ性洗浄剤は腐食のダメージを及ぼすことがあるので取り扱いには注意が必要です。
一方、中性洗浄剤は材質の適合範囲が広いため、歯科器材ではとても扱いやすい洗浄剤です。
しかし、アルカリ性洗浄剤に比べると洗浄効果が劣ります。そのためにタンパク質を分解する酵素を含有させて洗浄効果を高める洗浄剤が多くあります。酸性の洗浄剤は熱ヤケや錆び取りに使用されるものが多く、日常的に使用されるものはアルカリ性か中性洗浄剤の選択です。
アルカリ性洗浄剤の特性
アルカリ性洗浄剤は洗浄力が高く、血液や体液などのタンパク質、脂質汚れを効果的に除去します。医療用ジェット式洗浄装置(ウォッシャー・ディスインフェクター:WD)や超音波洗浄で使用されます。ただし、器具によっては腐食の懸念があったり、人体への影響が大きいので取り扱いに注意が必要です。主にWDで使用される洗剤の認識で良いでしょう。
酵素系洗浄剤の特性
中性洗浄剤にタンパク質などを分解する酵素を含有させ、洗浄効果を高める洗浄剤が「酵素系洗浄剤」です。酵素系洗浄剤は酵素が活性化する40℃前後が推奨されています。ただし、メーカーの洗剤の種類によって推奨温度設定は様々です。酵素を含んでいても水温には左右されない製品もあり、院内での使用を検討する場合は洗浄剤の推奨温度を確認し、院内の環境にあった洗浄剤を選択することをおすすめします。
タンパク質分解酵素入り洗浄剤とヨードの関係
タンパク質分解酵素入りの洗浄液にヨード系の消毒剤が混入してしまうと酵素が不活化してしまいます。院内でヨードを扱った場合、ピンセットやミラーなどの器材にヨードが付着していたら、それらはチェアーサイドで拭き取りましょう。ガーゼを水で濡らしたもので、ヨードを拭き取っておくと洗浄剤に混入するリスクが軽減されます。
酵素系洗浄剤を使用した浸漬洗浄法
酵素系洗浄剤を使用した浸漬洗浄を効果的に実施するためには、「洗浄剤濃度・洗浄温度・洗浄時間」が重要です。浸漬洗浄は40℃で20分程度の時間が必要です。酵素洗浄剤は40℃前後で最も効果を発揮します。
「汚染が軽微」「使用してからすぐに洗浄が可能」「温度管理が十分にできる」などの条件がそろえば、器材を物理的にスポンジやブラシで擦ることをしなくても浸漬のみで洗浄効果があると2008年に医療機器学会での報告があります。
しかし、一般的な歯科医院ではこの条件がなかなか揃いにくいのが現状であり、浸漬洗浄は汚染物質を乾燥により固着させないための前処理として取り入れた方が良いでしょう。
家庭用洗浄剤の特性
家庭用洗浄剤は、医療器具に付着した血液などの汚染物に対しては適切な効果を発揮しません。見た目は綺麗になりますが、タンパク質が残留することもあります。さらに防錆効果も低いため、トラブルを引き起こす原因にもなります。最近は家庭用洗浄剤でも酵素含有の製品が販売されていますが、酵素の種類が異なるため、血液などの汚染物に対しては効果が期待できません。
洗浄法によって洗剤を使い分ける
使用済み器材の再生処理では洗浄工程でいかに器具に汚染物を残留させないかが重要です。医療用洗剤は汚染物のタンパク質を効率よく除去できるように作られています。歯科医院によっては医療用ジェット式洗浄装置(ウォッシャー・ディスインフェクター:WD)の設置がなく、手洗いで器具を洗浄している医院もあります。
手洗いの医院には酵素入り中性洗剤がおすすめです。酵素入り中性洗浄剤はアルカリ洗浄剤に比べ、金属、ゴム、プラスチック器具に対して腐食性が低い洗浄剤です。皮膚への影響が少ないため、用手・浸漬洗浄に適しています。
WDを使用している医院ではメーカー推奨の指定洗剤を用いていることが多いはずです。WD専用の洗剤はアルカリ洗剤が多いので、洗剤の補充などの際に皮膚につけないように注意しましょう。