歯科治療は唾液をいかにコントロールするかを求められるように思います。また、歯牙の切削やや補綴物除去時には注水下での切削は必須です。歯内治療では根管内に唾液が入らないように配慮が必要ですし、補綴物の合着、接着時にも防湿を行い、唾液を排除が求められます。アシスタントを伴っての処置のバキューム操作、単独処置のバキューム操作もテクニックが必要です。そんな悩みを解決する器具のひとつに『多機能バキュームチップ』があります。
実際に使用されている医院様も多いように思います。とても機能的で便利な器具ですが、こちらの器材再生方法を考察します。
器材再生の基本は“洗浄”
使用済み器材の再生処理の基本は洗浄を行い付着した体液を取り除くことです。器材再生は「洗浄にはじまり、洗浄に終わる」と言われるぐらい洗浄が重要です。
排唾管を数倍長くしたようなこちらの形状の多機能バキュームチップの洗浄はどのようにするのが良いでしょうか。一般的なバキューム、外科用バキュームは長さがそれほどありませんので、試験管を洗うような形状のブラシで内部を擦り洗いをすることができます。金属製のバキュームであれば、超音波洗浄も可能ですし、医療用洗浄器(ウォッシャーディスインフェクター(以下WD)で内部洗浄することもできます。ところがこの多機能バキュームチップは内部の洗浄が非常に困難な作りになっています。
取扱い説明書を確認する
器材には取扱い説明書には器材についての再生方法や注意事項が記載されていますので確認をすることにしました。説明書には「洗浄・滅菌を行う」のみで洗浄方法の記載はありません。専用のブラシ的なものがないか製造元にお伺いしましたが、“ない”とのこと。つまりは「擦って洗浄する」はできないことになります。チューブの部分はシリコンですので、超音波洗浄も期待できません。そして医療用洗浄器(WD)も不可。こちらはアルカリ洗剤がチューブ内部のアルミに反応するので使用できないのです。残すは浸漬洗浄です。チューブ内に空気が残らないようにしっかりと洗浄剤を入れ込むことがおそらくコツでしょう。
チューブ内部の唾液を取り除く方法
洗浄剤がチューブ内部に満遍なく浸されるように浸漬するようにすると、洗浄液の成分により体液は落ちると考えられます。いわゆる浸漬洗浄です。しかし、内部に空気が入っていたりして十分に浸漬されていないと十分な洗浄効果が得られません。さらに臨床現場はとにかく慌ただしい!多機能バキュームチップのチューブ内にしっかりと洗浄液が入っているかを確認している時間はほとんどないのが現実的だと考えます。

バキュームクリーナーのように流す案
そこで筆者が考えたのは“強制的にチューブ内の唾液を流してしまうこと”でした。診療後にバキュームホースの中を洗浄するようなイメージです。多機能バキュームチップを使用する際にはあらかじめボトルに洗浄液を準備し、治療後はその場でボトル内の洗浄液を流してチューブ内を洗い流す方法です。この方法であればバキュームの吸引力で洗浄液をくまなく流すことができるのでチューブ内を一気に洗浄することができます。

洗浄後に大切なこと
チューブ内の洗浄ができれば、あとは外側を用手洗浄で擦って洗うのみです。そして乾燥。内部の水滴をしっかりと除去できるようにエアブローで飛ばすと早く乾燥できます。内部に水滴が残っていると滅菌不良の原因になりますので、ここはきちんと乾燥することを心がけましょう。
多機能バキュームチップの変色
多機能バキュームチップのシリコンチューブの色が茶色く変色している医院様を見かけます。経時劣化は仕方ありませんが内部の洗浄不良でタンパク質が固着してしまったと考えられるものもあります。また、取扱い説明書には薬剤による滅菌やオートクレーブ内の高温乾燥もチューブ劣化の原因になると記載されています。オートクレーブに関しては低温乾燥ができる機種かどうかを確認されると良いです。

治療器具の管理はしっかりとしよう
歯科の治療器具は多種多様にわたり、中には多機能バキュームチップのように再生方法を考察しないといけないものもあります。使用される患者さんがいつも安心して気持ちよく使用できるように、治療器具の管理をしっかりとおこないましょう。