ウォッシャーディスインフェクターをご存知ですか?医療器具専用の自動洗浄機のことで、医療器具の洗浄・消毒・乾燥を自動でおこなってくれます。略してWDと記載することもあります。(以下記事内でもWDと記します)
器具の処理を専門におこなう“クリーンスタッフ”が常在していない医院にとっては、診療しながら器具の処理を行うことが日常です。臨床現場としては、WDは「救世主」のような存在に思えて仕方がありません。
設備するには費用がかかりますが、その利点を考えるとかなり投資効果の高い製品であることも分かります。
食器洗浄機とはなにが違うの?
WDは医療器材の洗浄、すすぎ、消毒、乾燥の一連の作業を自動的に行ってくれます。最終すすぎの段階で90℃以上の熱水を使用して熱水消毒ができるように温度管理もされています。食器洗浄機との違いは使用する洗剤と熱水消毒の有無です。
洗剤が違う
食器に付着した汚れは主に油汚れです。手洗いでも食器洗浄機でも使用洗剤は油汚れを落とす性質のものが主体になっています。さて、医療器具はどうでしょうか?
歯科器具に付着するのは唾液や血液の体液汚れです。これらの汚れはタンパク質汚れです。洗剤を使うならタンパク質を分解してくれる性質のアルカリ性の洗剤を選択することが賢明です。アルカリ性洗剤の特徴はタンパク質を溶かす性質です。これは肌に接触すると皮膚を少しずつ溶かしてしまいます。よって、用手洗浄(手洗い)ではアルカリ性の洗剤は推奨されません。機械洗浄のWDでは洗剤が作業者の皮膚につくことがないため、アルカリ性の洗剤を使用することができます。こうして使用済みの器具の汚れをWDではしっかりと落とすことができます。
熱水消毒の有無
熱水消毒では80℃10分間の熱水処理によって芽胞を除くほとんどの栄養型細菌、結核菌、真菌、ウイルスを感染可能な水準以下に死滅または不活性化することができます。WDの消毒能力にはB型肝炎ウイルスなどの耐熱性ウイルスに使用されている90℃5分の条件が要求されています。WDの熱水消毒はウイルスレベルの微生物も死滅させることができます。
食器洗浄機にはこの条件を満たす熱水消毒ができるものがありません。以上の観点から食器洗浄機は医療器具の洗浄には向いていません。
ウォッシャーディスインフェクターの利点と欠点
ウォッシャーディスインフェクターは用手洗浄(手洗い)と比べて、
・作業者の感染リスクが低い
・熱水消毒ができる
・作業者による洗浄能力の差がない
・ランニングコストが安い
・作業者の労力の軽減
など、メリットが大きいのですが、初期設置のコストが高いことが欠点です。また、一度に洗浄できるのは利点でもありますが、状況によっては欠点にもなります。WDを導入初期時に起きたことは器具の不足でした。
器具が足りない!!
実際にウォッシャーディスインフェクターを導入して経験したことです。WDはどのメーカーのものも平均90分の洗浄時間を要します。ある程度、使用済みの器具を溜めてからまとめて洗浄することになるので、午前の診療を終えてからやっとWDのスイッチを入れることも珍しくはありません。
そうすると、足りない器具が出てきました。基本セット類は余裕があっても、数の余裕がない器具はその日のアポイント内容によっては手洗いをして滅菌を行い、次の処置に間に合わせるようにする必要が出てくることもありました。実際のところ、使用頻度の高い器具は買い足しをして、スムーズな器材再生になるように器具の数を調整をしました。当院で買い足しをしたのは咬合紙ホルダーと浸麻筒です。
昼休みも退勤も早い!!
WDの自動洗浄の魅力はいろいろありますが、その中でも労力の軽減はとても大きいです。診療をしながら器材処理をすることは大変な労力です。午前の診療の最後にWDに使用済み器具を入れてスイッチを押すだけ。午後の診療が始まる時間を見計らってセッティングすれば、午後の診療開始時には熱水消毒を終えた器具が出来上がっています。滅菌が必要な器具はそのままパッキングをしてスムーズに滅菌作業にも入れます。
終業時も同様です。診療が終わって流し台に器具が山積みになっていることもないので終業時の作業がとても簡単に済みます。
利点と欠点を理解して使いこなす
WDは利点もあれば欠点もあります。欠点についてはカバーすることができます。洗浄時間が長いので、滅菌時間と合わせると2時間以上も器材再生に時間を要します。急を要する器具についてはそもそも数が足りないのか、アポイントを調整すれば問題ないのか、手洗いをして、滅菌をすれば問題なく対応できるのか。状況によって対策をすれば問題ないと考えます。
WDを使いこなせるようになると、医院での時間の使いかたが変わってきます。WDを導入する機会があれば是非前向きに検討することをお勧めします。作業者の負担を減らすだけでなく、器具を確実に洗浄、熱水消毒をしてくれるWDは歯科医院にとって心強い存在になってくれます。